ワクチン接種/ユニバーサル Vs セレクティブ
2012年-13年、首都圏を中心に風疹が流行しました。
日本では公的予防接種として風疹ワクチンを昭和52年から導入してきました。先進国である日本で、風疹が流行する・・・グローバルな感覚では信じがたい出来事です。
これほどの大規模な風疹流行の背景は、どこにあるのでしょうか。
ユニバーサルとセレクティブ接種を比較しながら、S50年代~S60年代(1980~1990年代)の予防接種事情を、考えていきたいと思います。
全員接種と選択接種/アウトブレークへの備えとして
- セレクティブとユニバーサル
- セレクティブ接種では、流行の抑止は不可能
- ユニバーサル接種のメリット・デメリット
- 2012-13年風疹流行の特徴
- アウトブレークに対するユニバーサル接種の効果
- 風疹ワクチンの効果をアシストするためには
- ワクチンギャップ
1:セレクティブとユニバーサル
わかりにくい言葉ですが、ユニバーサルワクチネーションとは全員接種、セレクティブワクチネーションとは選択接種のことです。
2:セレクティブ接種では、流行の抑止は不可能
昭和52年から昭和63年まで、風疹ワクチンは、中学生の女生徒を対象に、セレクティブに接種されました。
当時の男生徒には、無料接種の機会がありませんでした。
(昭和52年風疹ワクチン定期予防接種化に関連する制度の変遷)
セレクティブ接種では、集団内に免疫弱者を抱え込む形になり、流行を阻止できません。
従来も、5~6年毎に風疹小規模流行を散発していましたが、大流行にいたる危険性は放置されたままで、2012-13年のような大流行が起きてしまいました。
3:ユニバーサル接種のメリット・デメリット
全員を対象とした予防接種(ユニバーサル接種)を予定すると、集団全体の免疫が高まります。
集団内での免疫獲得者が一定の割合を超えると、感染の連鎖はつながらず、流行は起こりません。
ユニバーサル接種のメリットは、集団内の流行を抑止できることです。
ただし、ユニバーサル接種を行うためには、接種対象が大規模ですから、コストも大きく、多くの人達の理解が必要です。
国民にそっぽを向かれるような政策では、充分な接種率が得られず、ユニバーサル接種の意味がありません。
4:2012-13年風疹流行の特徴
2011年 関西で始まった風疹流行は、2012年に関東に飛び火し、2013年には首都圏・関西圏を含めて流行が再拡大しています。
2013年春の時点で、発症者は20-30歳代の男性が大部分です。
風疹ウイルスは、免疫弱者を見逃すことなく、狙い撃ちしてきます。
風疹流行時には、予防接種後の女性であっても、経時的に免疫が低下するため、不顕性感染する可能性があります。
残念なことですが、不顕性感染の場合でも、胎児の先天性風疹症候群は一定の確率で発生します。
東京都は、成人女性を対象にセレクティブ接種を助成開始し、”女性”と”将来の命”を選択的に守ろうとしております。
この流行の主役は20歳代から30歳代の男性ですから、現行のセレクティブ接種を行っても、流行は抑制できません。
同世代の集団感染が一通り終息するまで、この風疹流行は続くと予想されます。
6:アウトブレークに対するユニバーサル接種の効果
(2010年コンゴ共和国ポリオアウトブレークに関して/資料)
2010年9月、コンゴ共和国では、隣国アンゴラに近いポワント・ノワールで 1型ポリオのアウトブレークが起こりました。
この時の発症者は、主に成人(15歳以上)です。
2010年12月、コンゴ共和国政府は、WHOの協力のもと、すぐにポリオワクチン(mOPV1)のユニバーサル接種を開始します。
小児・成人関係なく、国民全員にポリオワクチンが接種されていき、2011年3月(予防接種開始後4カ月)、ポリオアウトブレークは制圧されます。
ユニバーサル接種の効果を、きわめて明瞭に証明いたしました。
7:風疹ワクチンの効果をアシストするためには
従来は、“風疹に罹患すると、終生免疫を獲得できる”と誤って理解されておりました。
実際には、免疫が低下する前に、再感染(不顕性感染)することにより、免疫が持続されています。
再感染がなければ、風疹に対する免疫は、年月とともに減衰します。
この不都合を避けるための接種方法の一つとして、幼児期前半と後半での2回接種があります。
2008年から、MR(麻疹・風しん)ワクチンが導入され、幼児を対象に2回のユニバーサル接種が実施されています。
平成世代は、原則的にMR相当ワクチンを2回接種しているはずです。
この、免疫強化集団が社会内で一定の割合に達した時に、日本国内で風疹は流行できなくなります(風疹制圧)。
2012-13年の風疹流行は、平成世代のワクチン効果が浸透する前に、足をすくわれた形で流行が起きてしまいました。
予防接種制度が、セレクティブからユニバーサルに移行する過程でのアキシデントであり、本当に残念です。
8:ワクチンギャップ
海外では、先進国でなくてもおたふくワクチン、水痘ワクチン、B型肝炎ワクチン、ロタワクチン、髄膜炎菌性髄膜炎菌ワクチンが、ユニバーサル接種の対象となっています。
北朝鮮と日本を除く多くのアジア諸国でも、B型肝炎やおたふく・水痘のワクチンは、当然のようにユニバーサル接種です。
アメリカでは、水痘(水ぼうそう)を含むワクチンを、”幼児期”、”児童期”、”65歳”の3回にわたりユニバーサル接種しています。明確に”水痘制圧”を意識しており、米国民の将来に対して、戦略的・合理的な選択を選んでいます。
日本では、まだまだワクチンギャップが残っておりますが、改善の余地が残された・・・とも考えられます。
2007年麻疹が首都圏で大流行しましたが、その後、予防接種とくにユニバーサル接種に対して積極的な意気込みが感じられるようになってきています。
今後の展開に、期待したいと思います。
ふたばクリニック 広瀬久人(2013.04.28)