ふたばクリニック HomePage > コラム > PCR検査・ナゼ?ナニ?

コラム

PCR検査・ナゼ?ナニ?

2019年12月 中国武漢で発生した『新型コロナウイルス・SARS-CoV2』は、世界中に拡大しました。2021年5月時点で、既に人類の生活圏に定着しています。
SARS-CoV2は、短期間で根絶できる病原体ではありません。人類側が上手に感染コントロールし、付き合っていく対象です。
感染コントロールに際して、重要な対応がいくつかあります。ワクチン、治療薬、監視体制など包括的な感染対策が必要となりますが、検査体制も重要です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を検出するための検査は、大きく2種類あります。
核酸増幅検査(Polymerase chain reaction/PCR)と抗原検査です。
新型コロナウイルスは、RNAウイルスなので、核酸増幅検査はRT-PCR法を利用することとなります。
専門用語から一般用語になった「PCR検査」に関してコラムを設けてみました。
 

抗原検査とPCR検査

ウイルス粒子は、『外側のカプセル』と『中身の遺伝子』で構成されます。
「抗原検査」は、カプセル(カプセルの特徴的な一部)を調べる検査です。
「PCR検査」は、遺伝子(遺伝子の特徴的な一部)を調べる検査です。

DNA/PCR法の原理

RNAウイルス/RT-PCR法の説明の前に、DNAウイルス/PCR法に関して説明いたします。

遺伝子DNAは、「2本の核酸の鎖が、ハシゴのように」繋がっています。
少し熱を加えると、ハシゴが、2本の核酸の鎖にほどけていきます。
冷やすと、鎖どおしが手を結び、1本のハシゴに戻ります。

今度は遺伝子の材料・核酸を周囲に充分用意して、2本にほどけた核酸の鎖を冷やしてみます。
核酸の鎖は、つなぎ手として周囲の核酸と手をつなぎ、元の鎖とつながりません。
2本に分裂した核酸の鎖は、冷却時に、それぞれ新たな2本のハシゴをつくります。
核酸分子が充分溶存している媒体内で、1本のDNAを「加熱」「冷却」するとDNAが2本に増えます。

『加熱』・『冷却』の1サイクル毎に(1Ct毎に)、DNAを倍増する方法が『PCR法』です。
このサイクルを繰り返して、1本>2本>4本>8本・・・とDNAを増幅してきます。
39回繰り返すと(Ct39)、DNA『1個』が『1兆個』に増えます。
これだけ増えると、検出が容易になります。

DNA/PCR法は、DNA遺伝子であれば増幅検出が可能です。
ウイルスだけではなく、結核菌のような細菌、真核細胞もふくめ、DNA遺伝子(2本鎖)であれば、核酸増幅検査(PCR検査)が可能です。
PCR検査は、とても応用範囲の広い検査方法です。

RNA/RT-PCR法の原理

前項で、DNAウイルスのPCR法を説明いたしました。
今度は、RNA遺伝子(ウイルス)に関して説明いたします。

RNAは「1本鎖の核酸」です。加熱しても、冷却しても1本は1本のままです。RNAのままでは、増幅できません。増幅できなければ検出も困難です。

都合の良いことに、RNAをDNAに変換してくれるシステム・酵素があります。このシステムは、逆転写と呼ばれます。
逆転写を利用すると、RNA配列(1本鎖核酸)を維持したまま、DNA配列(2本鎖核酸)に変換可能です。

逆転写(RT:Reverse Transcription)を利用して、RNAをDNAに変換するひと手間が必要な検査を、RT-PCR法と呼んでいます。

新型コロナウイルス RNA/RT-PCR法

SARS-CoV2・新型コロナウイルスは、RNAウイルスです。
新型コロナウイルスは、RT-PCR法を利用して検査を行います。

RNAは化学構造的に不安定で、経時的に分解が進行します。唾液中にはRNA分解酵素が存在しますので、処理が必要となります。
検体採集に際して、きちんと手順を守らないと、せっかくの検査が無効になったり、検査時間が遅れたりします。

口腔内には、食物に由来する雑多な遺伝子や、常在菌の遺伝子がノイズとして含まれています。
検査時の注意をしっかり守って、RT-PCR検査を受検してください。

2021年5月21日 広瀬久人