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サイクロスポラ食中毒

シクロスポラとは?

病原体:Cyclospora cayetenensis

シクロスポラ(サイクロスポ-ラ)は、アピコンプレックス門の単細胞真核生物です。
原虫と呼ばれる寄生虫の一種です。

ヒト食中毒の起炎菌として確認されている種(亜種)は、Cyclospora cayetenensisです。
糞に虫体を排泄し、汚染された野菜などを食べることにより、感染を繰り返します。
人糞の下水処理が不十分で、糞口感染環が形成されている地域では、病原体の土着化(無症状の地域流行)を認め、風土病と位置づけされます。
汚染地域から輸出された食材を原因として、日本でもアメリカでも集団食中毒が起きています。
シクロスポラ食中毒は、旅行感染症と輸入感染症の両面を持っています。

シクロスポラのターゲット

シクロスポラ感染症は、汚染地域の風土病です。
腸管寄生虫なので、ヒトや動物の腸管内で保菌されます。
汚染地域への旅行・渡航は、感染リスクとなります。
汚染地域から出荷された生鮮野菜は、無差別な感染源となります。
食べ物から感染する病気なので、調理法に問題があれば、年齢・性別の関係なく、すべての喫食者に感染してしまいます。

シクロスポラ伝染の機序

感染因子・オーシストに汚染された食物を食べると感染します。
ヒトからヒトへの直接感染はありません。
米国でアウトブレークが多数報告され、イチゴ、サラダミックス、ハーブ、ラズベリーなど多種類の野菜・フルーツが原因食材となっています。
CDC(米)では、複数の州に及ぶ食中毒アウトブレークを調査し、リストアップしています。
https://www.cdc.gov/foodsafety/outbreaks/multistate-outbreaks/outbreaks-list.html

(本稿末尾 付記1 参照)
付記1において、マークしたところが、Cyclosporaによるアウトブレークです。
発生件数が多いことがわかります。

発症機序

シクロスポラは、本来動物の腸管に寄生する原虫(寄生虫)です。
汚染された食材を食べると、食中毒を起こします。
原因食材は、「生鮮野菜・フルーツ」がほとんどです。

動物の腸管に寄生する原虫が、野菜類を汚染する経緯は、以下のようなパターンに分類されます。
1:栽培期間、灌漑水の汚染
2:出荷時、洗浄水の汚染
3:袋詰めなど商品作業時の汚染

主症状
随伴症状

健康成人の場合、未治療・自然経過で軽快することも多いのですが、消化器症状は1-3ヶ月に及び、だらだらと下痢・腹痛が遷延します。(特徴3:罹患期間が長い)
免疫抑制状態にある場合、自然軽快することなく、消化器症状がさらに遷延・慢性化します。HIV感染者など免疫不全状態では、積極的な治療介入が必要となります。

臨床診断は、顕微鏡検査またはPCR検査を行います。検便・顕鏡にて寄生虫を特定できれば、診断確定となります。

シクロスポラ感染の予防

消費者が購入時に、食材食品の汚染を判断することはできません。
シクロスポラ感染症は、消費者に責任はありません。
有効な予防方法もありません。
有効な予防方法がないために、消費者は一方的な被害者となります。

一般細菌の場合は、残留塩素が残る水道水の洗浄は大切です。
しかし、シクロスポーラは塩素消毒に耐性を持ちます。(特徴4:塩素耐性)
上水道の残留塩素では、感染粒子・オーシストを不活化できません。
10μmのオーシストが付着した野菜を洗っても、オーシストを洗い流すことはできませんし、オーシストを不活化することもできません。

シクロスポラの特徴
  1. 1匹の病原体(オーシスト)でも、感染は可能。(特徴1:感染閾値が低い
  2. 1-2週間の潜伏期の後、水溶性下痢で発症。(特徴2:潜伏期が長い
  3. 症状も1-4ヶ月に及び。症状が重症の場合、腸管炎症に続発する慢性消耗性徴候が遷延。(特徴3:罹患期間が長い
  4. 水道の残留塩素に耐性があり、殺菌不可。(特徴4:耐塩素性
  5. 防御免疫が獲得できない(微絨毛内感染) 。(特徴5:免疫回避能力

シクロスポラは、生野菜やフルーツから感染し、数ヶ月も下痢が続き、予防は困難という厄介な病原体です。
さらに、初回感染のみでは防御免疫が獲得できないため、再感染のリスクもあります。
この特徴は、シクロスポラに特異的というよりも、原虫感染症・全般に当てはまる特徴といってもいいかもしれません。

生活環
1:消化管内環境

サイクロスピラの感染形オーシストを食べてしまった場合、まず空腸でオーシスト(8×10 µm)の被膜が崩れ(脱嚢)、スポロゾイト(胞子)が放出されます。
1つのオーシスト(大袋)には、二つのスポロシスト(小袋)が含まれます。
スポロシスト(小袋)には、それぞれ2匹のスポロゾイトが宿っています。
1つのオーシストが小腸で崩壊すると、4匹のスポロゾイトが放出されます。
体内で、病原体が4倍に増えるために、極めて効率的な感染が成立します。(特徴1:感染閾値が低い)

空腸で遊離したスポロゾイトは、空腸・回腸の『上皮細胞微絨毛部』に感染します。
微絨毛』と「小腸の絨毛」とは、別物なので、間違えないようにご注意ください。
学校の理化・生物で教科書に記載されている「小腸の絨毛」は、小腸表面に肉眼的にみられる突起構造です。
微絨毛』とは、小腸の絨毛表面の粘膜細胞に認める顕微鏡的な毛状構造です。
小腸絨毛」の長さは0.5~1.2mmですが、『微絨毛』は長さ1μmです。

原虫が、上皮細胞の微絨毛に付着すると、微絨毛の細胞膜が原虫を包み込む形で感染が成立します。

感染した原虫は、上皮細胞内に進行せず、微絨毛部位・粘膜上皮の表面にとどまり、栄養を上皮細胞に依存しています。
微絨毛内は細胞外として免疫システム的に処理されるため、防御免疫形成に時間がかかり、治癒が遷延します。(特徴3:罹患期間が長い、特徴5:防御免疫が獲得できない)

a:無性生殖(メロゴニー)
感染したスポロゾイトは、無性生殖(メロゴニー)を行い、メロゾイト(胞子)を放出します。
小腸腸管内に放出されたメロゾイトは、小腸上皮微絨毛に再感染し、再度無性生殖(メロゴニー)で増殖を繰り返します。
この増殖環は時間がかかります。
ゆっくりですが確実に増殖し、一定の感染量に増えた段階で発症します。(特徴2:潜伏期が長い)

b:有性生殖(ガメトゴニー)
メロゾイトのいくつかは、感染環の中で雄雌に性分化することがあります。
性分化したメロゾイトは、雄性をもつミクロ配偶子(microgametes)と雌性を持つマクロ配偶子(macrogametes)として成熟します。
ミクロ配偶子からは、精子成分が放出され、マクロ配偶子が受精するとオーシストを形成し、腸内腔に放出され、糞便と一緒に排泄されます。

2:体外環境

糞便とともに体外に放出されたオーシストは、最初は未熟で感染性を持ちません。
排泄直後のオーシストは未熟であるため、人から人への直接的な感染はありません。
排泄直後のオーシストには、スポロシストもスポロゾイトも認めません。
体外環境下(自然環境下)で、20℃~30℃・1-2週間(days to weeks)かけて成熟し、2つのスポロシストにそれぞれスポロゾイト2匹を含むオーシストが完成します。

オーシストを、経口摂食すると小腸で脱嚢し、新たな感染が成立します。

流行地域のおいて、ニワトリ・アヒル・犬の糞便からCyclospora cayetenensisのオーシストは検出されています。家畜が実効的に病原体を保菌するかどうかは、判定できませんが、現時点ではヒトに宿主特異性があると考えられています。

付記1:

2020.06.01 広瀬久人

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