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ジャガイモの食中毒

ジャガイモの新芽には、有害成分が含まれています。
新芽を食べてしまうと どんなトラブルがあるのでしょうか?
どんな成分が、食中毒を起こしてくるのでしょうか?

問題の有害成分は、グリコアルカロイド群(GAs)と呼ばれる有機アルカロイドです。
GAsにはコリンエステラーゼ阻害作用があるため、摂食後に下痢・腹痛が起きます。
摂取量が多いと、発汗、徐脈、呼吸困難を呈しますが、中等症以上の症状はあまり見かけません。
この章では、ジャガイモにおけるグリコアルカロイド群(GAs)に関して考察していきます。


有害成分:グリコアルカロイド群(GAs)

ジャガイモに認める主なグリコアルカロイド群(GAs)
  1. α-チャコニン(α-chaconine)
  2. α-ソラニン(α-solanine)
上記2種のGAで、ジャガイモGAsの95%を占めます。

その他のGAs

多種にわたるグリコアルカロイドを含むため、これらを一括してグリコアルカロイド群GAsと呼ばれます。(参照:付記1、付記2)
グリコアルカロイドは、単離された粉末の状態では、水に溶けません。
アルカロイドとしてイオン化した(GAs塩を形成した)場合は、水によく溶けます。
GAsは、イモの中では組織水に溶存しています。

GAsは熱に強く、加熱しても分解されません。
揚げても、煮ても、有害性は変化しません。

薬理作用

ソラニン、チャコニンは、コリンエステラーゼ阻害作用があり、副交感神経系を亢進させます。
自律神経には、交感神経(肉体系をチャージ)と副交感神経(内臓系をチャージ)がありますが、ジャガイモのGAsは副交感神経系を亢進させます。
消化管では運動亢進が起こるため、摂食後30分から数時間で下痢・腹痛を認めます。
唾液分泌亢進、発汗、徐脈、縮瞳、気管支収縮(喘息・呼吸困難)なども起こしてきます。

食後数時間以内に、腹痛・嘔吐・下痢を認めた場合は、毒素型食中毒を疑います。(感染型では、発症に時間がかかります)
メニューにジャガイモ料理が含まれている毒素型食中毒の場合、GAs中毒も念頭に対応する必要があります。

GAsの致死量(ヒトにおける推定)

ソラニンを比較すると、チャコニンの方が毒性が強い(少ない量で中毒をおこす)ことがわかっています。

この章では、グリコアルカロイド総量として、LD50を考えていきます。
(ソラニンやチャコニンそれぞれのLD50は、文献的な考察はありますので、ご自身で検索してください。)

マウス、ラットにおけるグリコアルカロイドのLD50は、30~60mg/Kg(被検動物体重比)です。(参照:付記2)
GAs含有量の多い部位は、ジャガイモの芽:1,500~3,000mg/Kgです。(参照:付記2)

仮定:体重50Kg成人のLD50を、1.5g(50Kg×30mg/Kg)と仮定する。
推定:体重50Kg成人のLD50/GAsに相当する”芽”の重量は、1~2Kg

『ジャガイモの有害成分の一番多い”芽”の部分だけを、1Kg以上食べないと致死量に至らない』ことが推測できます。

実際に、 ジャガイモのGAs誤食で、重症例や致死例は、ほとんどありません。
”誤食”とは、”誤って食べること”ですから、「間違って1Kg食べる」なんて事態は、通常ありえないのです。
致死量のGAsを、ジャガイモで摂取すること自体、非現実的な設定です。
(もし、ジャガイモのGAsで命を失うことがあれば、それは誤食ではなく、犯罪です。)


GAsの溜まりやすい部位

ナス科の植物は、GAsを産生します。(ジャガイモはナス科です)
成長部分や侵襲部位に、GAsは集積していきます。
成長点(茎の先端)や葉、花、果実、根(通常根)にも含まれます。
ジャガイモも花の後に果実が実りますが、この実にはGAsが多く含まれるため、食べられません。
地下茎で成長するイモは、通常の発育環境下ではGAsをほとんど含みません。
机上論では、安全に食べられます。
(参照:付記2、付記3)

イモであっても、GAsが問題になる場合もあります。

収穫前のイモが地上に露出し、イモの表面に葉緑素で緑色に変色した場合は、食べると危険です。
この変色部位には、GAsが集積しています。

収穫後のイモにストレスが加わると、GAsが増える

1:冷暗所に保管せず、強い光にさらされている場合
イモ表面に緑化変色が無くても、組織内GAsは増加します。

2:小さな傷を認める場合
冷暗所に保管しても、物理的な外力にさらされていると、GAsは増加します。

3:発芽部位
ジャガイモの芽が伸び始めると、”新芽”と”発芽した部分のイモ”にGAsが増加します。
発芽した窪みは、少し深くえぐり取ってください。

4:自家栽培のジャガイモの場合、小さいイモは避ける
小さいイモは、単位体積当たりの皮(表面積)が大きくなります。
GAsは表皮直下で産生されるため、小さいイモほどGAs含有重量比は大きくなります。
自家栽培のジャガイモは、小さいイモは避け、翌年の種イモと考えてください。  

スーパーで、明るい照明下に透明なビニール袋で小売りされている状態は、あまり好ましくありません。
自宅に持ち帰ったら、なるべく涼しく暗い場所に移し、早期に調理してください。

付記1
Potato glycoalkaloids and their significance in plant protection and human nutrition - Review
https://www.researchgate.net/publication/280018858_Potato_glycoalkaloids_and_their_significance_in_plant_protection_and_human_nutrition_-_Review
付記2
A Review of Occurrence of Glycoalkaloids in Potato and Potato Products
http://www.foodandnutritionjournal.org/download/3358

付記3
ジャガイモ中のグリコアルカロイドの簡易迅速分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1995/43/5/43_5_593/_pdf/-char/en

緑化ジャガイモの有害性に関する報道に関して

ジャガイモのGAsに関する、センシティブな報道を見かけることがあります。
アルカロイドは、極めて苦味の強い成分です。
子供が一番嫌う味です。
『感受性の高い小児に対する神経障害リスク』、『最悪の場合死亡する可能性』など、臨床では遭遇しにくい設定で放送されています。

臨床現場では、腹痛で苦しむ患者さんが、ほとんどです。
はっきり言って、典型的な毒素型食中毒です。
興味を引くために『ゆがめた臨床像』を強調する報道には、違和感を感じます。

2020.05.27 広瀬久人

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