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果実に潜むシアン化水素(青酸ガス)

シアン化水素(青酸ガス)を含む果実

ビワ、ウメなどの種には、未成熟の時期にアミグダリンが含まれます。
アミグダリンは、シアン化化合物の一つです。
実が成熟するまえに、未熟な種の胚乳(仁)を食べてしまうと、消化管の中でシアン化水素を発生します。
シアン化水素は、青酸ガスと呼ばれています。
未熟な種にシアンを仕込むのは、植物の生き残り戦術とも考えられます。
バラ科の果実に仕込まれる、アミグダリンを解説していきます。

シアン化水素とは

化合物:シアン化水素(Hydrogen cyanide)
化学式:HCN
青酸カリという劇物は有名です。
青酸カリを代表とするシアン化化合物は、人体内の酵素で分解され、シアン化水素を発生します。
シアン化水素は、体温では気体(ガス)であり、血液・体液に溶存・拡散していきます。
細胞内に取り込まれたシアン化水素は、ミトコンドリアの電子伝達系をブロックします。
ミトコンドリアのATP産生は静止し、ATPが枯渇した細胞は代謝が停止します。
動物細胞のミトコンドリアは、シアン化水素によって致死的な影響をうけます。
植物細胞のミトコンドリアは、シアン化水素に影響されない代謝系をもち、耐性があります。

バラ科植物の種子とアミグダリン

モモ、スモモ、アンズ、ビワ、ウメ、アーモンドは、バラ科に属します。
バラ科の果実は、有胚乳種子と呼ばれています。
タネの中に、胚乳を持つ(有胚乳)種類ということです。(下図参照)



果皮・果肉のなかにタネがあります。
その種の中に、子葉と胚乳が用意されます。
子葉が発芽するための栄養は、胚乳のなかに蓄えられています。

未成熟なバラ科の実には、アミグダリンが含まれています。
果肉も、胚乳もアミグダリンを含みますが、圧倒的に胚乳の含有量が多いのです。
果実がが成熟すると、アミグダリンは分解され、消失していきます。

胚乳のことを”仁(じん)”と呼ぶこともあります。
アンズの胚乳は”杏仁(あんにん)”、桃の胚乳は”桃仁(とうにん)”と呼ばれ、食材・漢方薬として有名です。

青梅(未熟な梅の実)は、果実・種子にアミグダリンを含みます。
漬けたばかりの青梅は、シアン化水素中毒を起こしやすく、浅漬けの摂食は厳禁です。

ビワの胚乳は、他の果実に比べて大きく、アミグダリン含有量が多い傾向にあります。
ビワの胚乳を乾燥させると、アミグダリンが自然分解されず、そのまま残ってしまいます。
ビワの種子粉末を利用した健康食品が問題になりました。
胚乳に含まれるアミグダリンが分解されず、そのまま含有されていたのです。
もちろん、農林水産省は注意喚起を行っています。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/loquat_kernels.html

アミグダリン(Amygdalin)とシアン化水素

アミグダリンは、分子量457.43g/mol、融点223~226℃の安定した有機化合物で、常温では固体です。
アミグダリン自体には、毒性はありません。
アミグダリンは、消化管内で加水分解されて、シアン化水素を発生します。
アミグダリン1分子(分子量457.43)から、シアン化水素1分子(分子量27.03)が発生します。

アミグダリンの障害性

シアン化カリウム(青酸カリ)の分子量:65.12g/mol
致死量:200~300mg/成人
(“その13 青酸化合物” (日本語). 一般社団法人日本中毒学会,2018年10月3日)

シアン化水素の致死量から、アミグダリンの致死量を概算すると1.4~2.1g/人となります。

致死量のアミグダリンを食べるためには、極めて多量のタネが必要です。
逆に、胚乳によるの中毒症状は、軽症・中等症が多く、致死的な誤食は見かけません。

シアン化水素に暴露直後、初期症状は、頭痛・めまい・嘔気です。
経時的に、過呼吸、頻脈を合併し、不安・焦燥発作を起こします。
シアン化水素の特異的な症状として、顔面紅潮があります。

さらに、中毒症状が進行すると、バイタルサインが呼吸抑制、徐脈へとシフトします。
胚乳誤食で重症中毒に至ることは稀ですが、もし致死量摂食を仮定すると、血圧低下・不整脈・痙攣・意識障害をへて、ショックへと移行すると考えられます。

2020.05.26 ふたばクリニック 広瀬久人

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