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成人へのBCG接種に関して

BCGは、あまり人気のある予防接種ではありませんでした。(2020年記載)
不人気な原因として、1:有効対象年齢が乳幼児期と短い、2:児童・思春期・成人以後の感染阻止効果が低い、3:接種部位に一定期間接種痕を残す、4:再接種時のコッホ反応など、ネガティブ要因を抱えています。

BCGワクチンの不利な面が強く指摘され、少数意見ながら「BCG不要論」が出てくるくらい虐げられていた印象もあります。実際、BCG接種を希望しない保護者が増え、未接種割合が増加している予防接種でもありました。(2020年記載)

『SARS-CoV2・新型コロナウイルス』は、2019年後半に発生し、2020年パンデミックに進行しました。
同感染症拡大に際して、BCG接種希望者が急増しました。BCG未接種者に危機意識がひろまり、同剤接種を希望されたことが要因です。

さらに、『BCG接種の記憶がない』という理由で、一般成人も含めてBCGワクチンを希望する事態に発展いたしました。

今回は、日本のBCG定期予防接種制度の変遷と、成人BCG接種後のコッホ反応に関してまとめてみました。

日本におけるBCG定期予防接種の変遷
制度開始年   制度の概要
1949年~ 30歳未満の人に毎年ツベルクリン反応検査を行い、BCGによる免疫が確認されない場合、BCGを再接種(皮内接種)。
この制度下で接種対象となった年代(生年) 1919~1950年生まれ
年齢条件 30歳未満
事前検査 ツベルクリン検査 必要
接種条件 陰性であれば 接種
非接種条件 陽性であれば 以後接種しない
制度開始年   制度の概要
1951年~ 小学校就学前の乳幼児を対象に、毎年ツベルクリン反応をチェックし、陽性以外なら接種(皮内接種)。
この制度下で接種対象となった年代(生年) 1945~1963年生まれ
年齢条件 小学校 就学前
事前検査 ツベルクリン検査 必要
接種条件 陰性であれば 接種
非接種条件 陽性であれば 以後接種しない
制度開始年   制度の概要
1974年~ BCG接種の定期化。乳幼児(4歳未満)、小学校1年生、中学校2年生の3回に定期化
この制度下で接種対象となった年代(生年) 1961~2005年生まれ
年齢条件 1回目:4歳未満、2回目:小学校1年生、3回目:中学校2年生
事前検査 ツベルクリン検査 必要
接種条件 陰性であれば 接種
非接種条件 陽性であれば 以後接種しない
制度開始年   制度の概要
2005年~ 接種対象者が生後6ヵ月までを推奨し、事前のツベルクリン反応検査を省略してBCG接種を実施。
この制度下で接種対象となった年代(生年) 2005~現在に至る(2020年記載)
年齢条件 6ヶ月以下を推奨(0歳で接種可能)
事前検査 ツベルクリン検査 なし
接種条件 なし(特異的な要件なし・通常の予防接種に準ずる)
非接種条件 なし(特異的な要件なし・通常の予防接種に準ずる)
付記:1967年:皮内接種法から管針を用いて行う現在の経皮接種法に変更。

1919(大正8)年~1998(平成10年)生まれの人は、2回以上の接種機会がBCG制度上認められていたこととなります。

BCG接種記録は、2005年以後に生まれた方は、母子手帳にしっかり記載されていると思います。

1974年~2004年に生まれた方は、母子手帳にBCG接種記載が残されている可能性が高いと思います。

1973年以前に生まれた方のBCG接種は、多くの自治体で集団接種として対応されていました。特設会場や、教育機関での接種が実施されています。BCG接種記録は存在したはずですが、母子手帳への記載が無いこともあります。

成人BCG接種に関する問い合わせ

BCGに関する質問が増えています。よくある質問を抜粋してみました。

Q:ツベルクリンが陽性だったため、BCGを受けていません。

Ans
 ツベルクリン検査が陽性であれば、1:以前にBCGを接種している、または 2:結核に罹患しているかのいずれかに該当します。
 もし、結核感染があれば、ツベルクリンは極めて強い陽性反応を示します。(ツベルクリン判定時に、結核の専門病院受診を強く要請されているはずです。)
 BCG接種によるツベルクリン反応陽転を確認したため、BCG追加接種を中止したと考えられます。

Q:ツベルクリン接種痕が見当たりません。BCGを接種していないのですか?

Ans
ツベルクリン接種痕は、経年的に消退します。
1967年以降、日本国内で管針を利用するようになりました。管針によるBCG接種痕は、成人になると目立たなくなります。
ツベルクリン接種痕が確認できないからと言って、BCG未接種という判断はできません。

Q:BCG接種したかわかりませんが、BCG接種を希望します。接種して問題ないですか

Ans
成人に対して、BCG接種は推奨いたしません

1:BCG接種は、乳幼児期の接種が有効です。成人へのBCG接種は、結核感染阻止に疑問が残ります。
  BCG接種歴がない場合でも、成人の初回BCG接種の有効性には問題があります。
2:BCG再接種の場合、BCGワクチンのブースター効果は認められておりません。コッホ現象の誘因となるだけです。

上記2点を根拠として、当院では成人BCG接種を、積極的に推奨するものではありません。

Q:結核の抗体検査(血液検査)が陰性なのに、BCG接種後にコッホ反応が起きた。なぜ?

Ans この質問は、3つの問題点を含んでいます。きちんと整理して考えてみましょう。

Step1 結核に抗体検査はない
結核は抗体検査を行いません。IGRA(Interferon-Gamma Release Assays・インターフェロンγ遊離試験)のことを、抗体検査と勘違いしてます。
結核菌に対する生体内対抗反応は、白血球・とくにマクロファージやリンパ球が主役の『細胞性免疫』となります。抗体『液性免疫』は脇役にすぎません。結核に対する感染免疫を評価する場合、抗体よりも白血球の反応性を調べることが大切です。
IGRAも、ツベルクリン検査も、いずれも細胞性免疫を評価するための検査です。

Step2 IGRA陰性の意味
IGRA陰性とは、結核の感染歴がないことを示唆します。
IGRAでは、BCG接種の有無を評価できません。

Step3 コッホ現象は、結核感染以外でもおこる
BCGのコッホ現象は、1:BCG再接種者、2:結核既往者に認めます。

『IGRA陰性で、BCG接種後にコッホ反応を認めた』場合とは、『BCG既接種者に、BCG追加接種を行ったコッホ反応』です。このケースでは、結核感染の可能性はありません。

コッホ現象の炎症は、数週間~数ヶ月持続することもあります。高度の滲出性炎症やリンパ節炎がなければ、とくに創保護する必要はなく、経過観察のみとなります。

注意:定期予防接種は、年度により制度改正が行われています。
このページでは、西暦年で記載しておりますが、出生年度の関係により、1年程度の誤差を認める可能性があります。あらかじめご了承ください。

2020.04.10 広瀬久人