やっかいな食中毒・ナナホシクドア(クドア・セプテンプンクタータ)
ナナホシクドアは、魚類の寄生虫として従来より知られていました。
2010年頃、起炎菌不明の食中毒を厚生労働省が調査した際に、病原体としてナナホシクドアがピックアップされました。
クドアによる感染魚は、”養殖ヒラメ”からの検出報告が多い傾向にあります。
養殖技術の進歩により、ヒラメの流通量が増え、刺身で食べる機会も増えたために、クドア食中毒も増えています。
実効的な対策が困難な”クドア食中毒”に関して、コラムを用意いたしました。
ヒラメの刺身・食中毒/ナナホシクドア(クドア・セプテンプンクタータ)
- ナナホシクドア(クドア・セプテンプンクタータ)とは
- 刺身食中毒・病原としてのナナホシクドア
- 予防方法
- 食品・食材管理に関して
- 余談ですが・・・
ナナホシクドア(クドア・セプテンプンクタータ/Kudoa septempunctata)とは
ナナホシクドアは、魚類と環形動物(ゴカイ、イソミミズなど)を交互宿主とする”粘液胞子虫”という寄生虫の一種です。
大きさは約10μmで、魚類に寄生する時は”半球状”の形をしています。環形動物に寄生する時は”錨状”に体形を変えます。(宿主により胞子形態を変えていきます。)
魚の筋肉内に寄生しますが、ナナホシクドアの胞子は小さく半透明なため、魚肉と区別はつきません。
刺身食中毒・病原としてのナナホシクドア
刺身を食べた時に、魚肉内の胞子も一緒に飲み込んでしまいます。
食後・数時間(2~6時間)で、激しい嘔吐・下痢を一過性に認めますが、ほとんどの場合速やかに回復します。
ナナホシクドアは、ヒラメ、マグロ、タイ、カンパチなど、いろいろな刺身から検出されています。
クドア感染数が少ない場合は、生食しても食中毒を起こしません。
感染量が多い場合のみ、クドア食中毒を起こしてきます。
クドア感染量は、天然魚に比べて養殖魚の報告が多い傾向にあります。
特に養殖ヒラメの感染率・感染量が多く、クドア食中毒の原因食材の6割がヒラメです。(2012年)
なぜヒラメに多いのか・・・なぜ養殖魚に多いのか・・・よくわかっていません。
同じ出荷ロット中で、感染数の個体差が極めて大きいのですが、その理由もわかりません。
予防方法
ナナホシクドアは冷凍・加熱に弱く、”マイナス20℃・4時間の冷凍”、”中心温度75℃5分の加熱”で食中毒を防ぐことができます。
酢〆(すじめ)による不活化は可能ですが、中心部分まで酸固定する必要があります。(料理と呼べるものではありません。)
醤油、ワサビ、ショウガによる即効性のある殺菌は不可能です。
【注意】
ナナホシクドアの寄生では、ゼリーミートは起こりません。
ナナホシクドアを含む刺身は、外見・味に変化はありませんので、目視・味見ではチェックできません。
ゼリーミートとは、寄生された魚肉が、ゼリー状に変性することです。
ナナホシクドア以外の ”クドアの仲間”の一部が、魚肉をドロドロに変性(ゼリーミート)することがあります。
食品・食材管理に関して
海・生簀(いけす)から収穫した食材魚にナナホシクドアが寄生している場合、流通段階で感染数が増えることはありません。
・水揚げされた(〆られた)魚体内で、ナナホシクドアが増殖することはありません。
・市場や店頭の水槽内で、ナナホシクドアが増殖することは、まずありません。
・水槽内で、汚染魚から非汚染魚への伝搬もありません。
輸送・保管中に、目視での寄生の有無を判定することは不可能です。
出荷された魚体の中でも、感染閾値を超える感染魚の割合は少ないため、一部をサンプルとして検査をおこなっても、感染魚はスルーされてしまいます。
サンプリング検査は、意味がありません。
魚肉の顕微鏡検査や、PCR法による検査方法はありますが、流通魚を全て検査対象にすることは不可能です。
汚染を確認する現実的な方法はありません。
水揚げ時点で汚染されている以上、、卸・仲卸・流通業者に責任を問うことはできません。
スーパー・食料品店などの小売店や飲食店では、ナナホシクドア寄生を確かめる手段はなく、悪意なく寄生魚を販売してしまいます。
残念ながら消費者も、刺身を食べる時にクドア感染には気付きません。
クドア食中毒からの防衛を考えるとき、流通消費経路に対策はなく、感染回避の具体的な方策もありません。
生魚(刺身)を食べる習慣があるかぎり、クドア食中毒は極めて予防が難しい食中毒です。
余談ですが・・・
ミクソゾア門・粘液胞子虫のうち、分子系統解析に基づき、胞子に4つ以上の極嚢があるもの全てを Kudoa 属に含めるため、クドア属は非常にバラエティに富む属です。
クドア属は、魚類と環形動物を交互宿主としながら、寄生先により粘液胞子形態(魚類)と放線胞子形態(環形動物)を使い分けています。
魚類、環形動物を往復する生活環を形成しており、最終宿主という寄生対象がありません(交互宿主)。
現在、ヒトに対する病原性が指摘されているのは、ナナホシクドア(クドア・セプテンプンクタータ)のみです。
ナナホシクドア以外のクドア感染(魚)ですが、K. thyrsites、K. amamiensis等に感染すると、魚肉にゼリーミート変性を起こします。
ゼリーミートとは、魚の死後、クドアのシュードシストに含まれるカテプシンなどの蛋白分解酵素で、魚肉がゼリー状に変性します。
漁獲後すぐに冷凍するとゼリーミートの進行は一時的に中断しますが、解凍後に変性が再燃するため、商品価値がなくなります。
1975年沖縄海洋博覧会・海洋牧場のブリ養殖、1990年沖縄開発庁の委託事業・カンパチ飼育試験で、K. amamiensis感染が高率で発生しており、沖縄県でのブリ・カンパチ養殖断念の主要因となりました。
2014年10月14日 ふたばクリニック 広瀬久人