現代社会に適応しやすい病原体
冷凍食品に潜むリスク/リステリア感染症
リステリア・・・馴染みのない病原体です。
リステリアは、食べ物から感染します。
腸管に感染巣を形成し、高熱・頭痛・体節痛が主症状となります。
下痢・嘔吐はあまり目立たない、発熱優位の消化管感染症です。
まれに、血流にリステリアが侵入して、敗血症や髄膜炎を起こす場合もあります。
リステリアとは
リステリア属の中でも、ヒト(人間)に病原性をもつ種は、リステリア・モノサイトゲネス(以下 リステリアM)です。
リステリアMは、土壌・水中、どこにでも常在します。
リステリアMの大きさは1μmです。ウインナーソーセージ型(桿菌)で、常温では鞭毛をもち自己移動が可能です。
人体環境温度(37℃)では、鞭毛は消失し、運動性を失います。
リステリアM感染症と冷凍食品
リステリアMは冷凍食品や含塩環境の中でも充分生存可能なため、冷凍食品・保存食による感染が報告されています。
冷凍技術の進歩により、日常生活は便利になりました。
食材を大量に加工・調理し、冷凍食品として保存・販売できる流通システムは、私たちの日常に欠かすことのできないものです。
このシステムは、冷凍食品の中でも生存できるリステリアにとって、好都合なカタパルトになってしまいました。
リステリアMの特徴
耐寒性
4℃でも、増殖が可能です。通常の冷蔵庫の中で、増えることができます。
マイナス4℃(-4℃)でも、活動は可能であり、数年間生存します。
マイナス20(-20℃)でも、生存できます。
耐塩性
10%の食塩中でも、増殖可能で、数年間生存できます。
漬物、塩燻製(スモークサーモン・ベーコン)処理では、リステリアに対処できません。
30%食塩水でも、生存可能であり、除菌はできません。
耐薬剤性
食品使用可能な濃度の亜硝酸にも抵抗性があるため、通常の精肉処理では除菌できません。
腐敗菌ではない
リステリアMは、腐敗菌ではありません。リステリアに汚染された食品でも、味や香りに変化はありません。
常在性
市販精肉のリステリアM検出レポートがあります。
(調査研究・動物を含めた環境中及び調理用食肉のリステリア汚染状況・岡山県環境保健センター年報28,73-77,2004)
調査期間が短く、調査対象市場も限定されているため、信頼性は高くありませんが、それでも市販精肉の10~30%からリステリアMが検出されています。
ご注意:リステリアMが検出された食肉であっても、きちんと加熱調理すれば摂食可能です。リステリアMは加熱に弱く、しっかりと熱調理すれば、排除可能です。
日和見感染症
感染弱者を選別する”弱い者いじめ”を、日和見感染(ひよりみかんせん)と呼んでいます。
健常人が、リステリアMに汚染されたメニューを摂食しても、発症することはほとんどありません。
感染のターゲットは、妊婦・胎児と感染弱者(乳幼児、高齢者、免疫弱者)です。
リステリアM感染症
感染弱者・感受性者がリステリアMを経口摂取すると、1日~10日後にインフルエンザのような筋肉痛を伴う発熱を認めます。
下痢・嘔気を認める場合もありますが、常見されるものではありません。
消化器感染症であるにもかかわらず、腹部症状よりも、発熱症状のほうが目立つ病態です。
さらに、菌血症・敗血症・髄膜炎に進展した場合は、意識障害や痙攣(けいれん)を合併します。
まれに、初期の発熱や筋肉痛が顕性化せずに、髄膜炎を初発症状として発症する場合もあります。
妊娠中のリステリアM感染症・胎児への影響
前述したとおり、リステリアMに汚染された食材を食べても、健常人は ほとんど発病しません。
しかし、妊娠中の女性の発病率は、健常人の20倍と高くなります。
リステリアMに妊娠中の女性が感染した場合、母体の症状は無症状・軽症でも、胎児に影響が及ぶ場合もあります。
流早産の原因になるばかりではなく、胎児髄膜炎を発症します。
母親は、リステリアM感染を自覚していないにもかかわらず、新生児が障害を持って生まれてくる場合もあります。
治療法
リステリアM感染症に罹患する人は、免疫が低下していると考えられます。まず、基礎疾患の対応が重要です。
感染症対策として、ペニシリン系抗生物質を使用しますが、一部の抗生剤(セフェムなど)は全く効果がありません。
治療プランに関しては、主治医としっかり ご相談してください。
どんな食材が怪しいのでしょうか?
自然界に常在するため、野菜・果物・肉・卵・乳製品・魚など全ての食材が汚染される可能性があります。
CDCの報告によるリステリアM汚染食材のリストは、メロン、チーズ(feta, queso blanco, queso fresco, brie, Camembert, blue-veined, panela) 、ホットドック、キャセロール、ランチョンミート、サラミ、ジャーキー、冷凍パテ、冷凍肉、冷凍海産物、スモークサーモン、マグロ、タラ、サバ・・・
保存食品は、缶詰以外なら、ほとんどがリステリアM汚染の可能性が、極めて低いながら指摘されています。
冷凍保存だからと過信せずに、賞味期限に注意し、しっかり加熱調理してから食事をお楽しみください。
2013年9月28日 ふたばクリニック 広瀬久人