現代社会に適応しやすい病原体:蟯虫(ギョウチュウ)感染症
蟯虫は、一回の産卵で6千~1万個の卵を産みつけます。
保虫者の肛門に産卵された0.04mmの卵は、脱落し、肌着や寝具・部屋に拡散していきます。
この卵を口から飲み込むと、腸内で孵化し、再感染のサイクルが形成されていきます。
清潔な環境空間であっても、0.04mmの虫卵の管理まではできません。
一旦家族内に発生してしまうと、なかなか厄介な寄生虫です。
伝染方法
蟯虫のメスは、抱卵が成熟すると、保虫者の肛門から這い出して、肛門周囲に産卵します。
虫卵は、産卵後6~7時間程度で感染が可能となります。
肛門を触ったり、寝具・衣類などを介して、虫卵を飲み込んで感染が成立します。
メスの産卵数は、1回につき6千~1万個と極めて大量です。
数が極めて多いため、偶発的な経口摂取が感染の引き金となります。
蟯虫の生活史
ヒトが蟯虫卵を飲み込むと、十二指腸で孵化し、幼虫の状態で盲腸・結腸起始部位に移行し、数週間で成熟します(交尾が可能となります)。
成熟すると、オスは2・5cm、メスは1cmになります。
交尾後オスは、すぐに寿命をむかえます(便と一緒に排泄されます)。
交尾を終えたメスは、約1ヶ月間盲腸にとどまり抱卵し、卵の成熟を待って、下部結腸へ移行します。蟯虫の産卵は、保虫者が寝ている夜間に行われ、肛門から這い出した後、産卵を行います。産卵後、メスは寿命をむかえるため、腸内に戻る事はありません。
蟯虫症の検査
セロファン検査が、標準検査となっています。
朝、起床直後に、粘着剤の付いたセロファン紙を肛門にあて、蟯虫卵の有無を確認します。
1匹のメスは、生涯で1回しか産卵しません。寄生虫数が少ない場合、1回のセロファン検査では偽陰性となる可能性があり、2回法が一般的です。
【肌着・寝具・リネン】
肛門周囲の虫卵は、時間の経過とともに脱落していきます。肛門から脱落した虫卵は、肌着や寝具類を汚染していきます。
卵の長径は、40マイクロメートル(0.04mm)と小さいために、肉眼では確認できません。
室内に脱落した虫卵は、冬季で1週間以上、 20℃の環境(春秋)では、1カ月以上感染能力があります。逆に、30℃の高温環境下では、2~3日で死滅します。
エタノールや次亜塩素酸などの消毒薬は、2~3時間以上の浸漬で、有効性が確認されています。しかし、一般的な”拭き掃除”に消毒薬を利用しても、虫卵は不活化できず、感染能力は維持されています。
人体やリネン類から脱落し、環境中に拡散した虫卵の除去は、困難な場合がほとんどです。こまめな掃除は必要ですが、蟯虫に対する室内環境対策には、有効な手段が少ないのが実情です。
【治療法】
駆虫薬を内服することにより、腸管内の成虫には有効です。1回の内服で、ほとんどの成虫は駆虫できます。
ただし、家族内感染者が残ると、いつまでも家庭内で感染環を形成するため、家族全員の内服治療を同期する必要があります。
また、駆虫薬は幼虫には効果が弱いため、2週間後の追加内服が重要です。
【蟯虫と回虫を比較して】
蟯虫と回虫は、いずれも有名な寄生虫です。
蟯虫は、都市型に環境が整備されても、家族内発生・集団発生を繰り返す寄生虫です。
回虫の場合、産卵後の虫卵が成熟するまで、約1か月が必要です。自然界での回虫卵は、土中で成熟し、野菜などに付着して、宿主が食べて感染します。下水道が整備され、屎尿が再利用されない環境では、回虫の感染環は断たれ、現在日本では激減しています。
虫卵の成熟に必要な期間は、蟯虫は数時間、回虫は1カ月です。スピード感の差が、衛生環境の変化に馴化するカギとなりました。
2013年8月30日 ふたばクリニック 広瀬久人