現代社会に適応しやすい病原体:アタマジラミ感染症
アタマジラミは、人間の頭皮を唯一の生活圏としています。通常のシャンプーや入浴では、予防や駆除はできません。
どんなに清潔管理を徹底しても、頭髪の直接接触で伝染するため、小児環境では集団発生しやすい感染症です。
初期には気付きにくい感染症なので、一人の感染に気付いた時は、すでに多数の感染者を認めてしまいます。
伝染方法
【接触感染】
アタマジラミは、頭髪の接触で感染します。シラミは、頭皮の表面・頭髪の中で発育します。地肌に近い頭髪内に潜んでおり、髪の毛が接触すると感染します。通常の対人距離を保っていれば、感染することはありませんので、小児や家族の間で伝染していきます。
【間接感染】
アタマジラミ保虫者の使用したタオルや衣服に、一時的にシラミがついていることがあります。シラミは、保虫者の体から離れても、2~3日生存可能です。幼虫は、2~3mm大なので、肉眼ではほとんど確認できません。タオルや衣類の共用は避けてください。
入浴やプールの水を介して伝染することは、ありません。脱衣・着衣時に間接感染する可能性がありますので、衣類・タオルの取り扱いには注意が必要です。
アタマジラミの症状
アタマジラミは、幼虫・成虫いずれも吸血します。
吸血に伴う掻痒感が強く、お子様の場合不機嫌の原因となります。
また、掻破行為による皮膚の炎症から、二次的な細菌感染症・膿痂疹を起こすこともあります。
脱落したアタマジラミへの対応
【寝具・リネン】
寝具には、アタマジラミがついている可能性があります。ピローカバー、シーツは毎日交換するようにしてください。
アタマジラミは、高温・乾燥した環境に弱い性質があります。60度以上の温風乾燥機にかけると(30分以上)、リネン類についているシラミは、生存できません。
布団は、こまめに天日干しするように心がけてください。
【部屋・絨毯】
通常の日常生活で、脱落したアタマジラミの再感染は、ほとんどありません。
シラミは、毛の少ない皮膚には寄生できないため、手や足から感染する可能性はほとんどありません。
床や絨毯におちたアタマジラミは、ソックスやズボンの裾から感染することもありません。
部屋のケアとして、掃除機を毎日かけてください。(最近の掃除機は、1mmの幼虫を捕捉する能力があります。)
アタマジラミは、人間の頭皮を唯一の生活圏とするために、ペット(犬・猫・小鳥など)に伝染することはありません。
【ぬいぐるみなど】
洗濯・温風乾燥ができないものは、ビニールの袋に密封して、5日間放置してください。
シラミは、飢餓耐性がないため、吸血できない環境では2~3日で死滅します。
治療法
シラミの生活圏は、毛の植生に特異的に依存します。アタマジラミは頭髪に、ケジラミは体毛に完全に棲み分けされています。アタマジラミが、植生の合わない陰毛に生息することは難しく、すぐに脱落してしまいます。
シラミ退治で、一番確実な方法は、毛を除去してしまうことです。生活環境を奪ってしまえばシラミは寄生できなくなりますが、”丸刈り”まで対応することは難しいとおもいます。
- 散髪
- 外用剤
散髪
毛髪の量を少なくするは、一番重要です。
アタマジラミは、逆立ちして(虫頭を寄生先の皮膚に向けて)、髪の毛に産卵します。
虫卵は、髪の毛の根元から5~10mm位の場所に産卵する場合が多く、髪の毛を5mm未満にカットすれば、アタマジラミにとって住みにくい環境となるだけではなく、産卵が困難となります。
(虫体が多いときは、髪の毛の根元に産卵することもあります)
また、治療中の頭髪管理のためにも、髪の毛は短いほうがケアしやすく、治療開始に合わせて毛髪量を少なくすることが重要です。
【ご注意】美容室・理容室のご利用前に、電話確認をしておかないと、トラブルとなる場合もあります。
外用剤・フェノトリン(商品名 スミスリン/製造・大日本除虫菊株式会社)
蚊取り線香で有名な除虫菊の成分(ピレスロイド)を、人工的に合成したものが”フェノトリン”です。
フェノトリンは、昆虫・両生類・爬虫類に特異的に神経障害性を示すため、哺乳類や鳥類には比較的安全な薬剤です。
フェノトリンは、パウダータイプ(粉末)とシャンプータイプがあり、シャンプータイプが非常に使いやすくなっています。
(ご注意:保険適応はありません。薬局でお買い求めください。)
【スミスリンシャンプー・パウダーの使い方】
適量を髪になじませ、5~10分放置します。
使用後はしっかりと洗い流し、通常のシャンプーをスミスリン使用後に使っても問題ありません。
スミスリンは、3日おきに1回使用し、3~4繰り返します。
具体的な使用方法は、パンフレット(2011.11改訂)をご参照ください。
【留意事項】
スミスリンは、幼虫・成虫に殺虫効果がありますが、虫卵には無効です。産卵から孵化までが6~10日かかりますので、治療完了まで2週間はかかります。
ヒトジラミとケジラミの比較
ヒトに寄生するシラミは、ヒトジラミとケジラミの2種(亜種を含めると3種類)のみです。
ヒトジラミ |
ケジラミ |
---|---|
(亜種/アタマジラミ、コロモジラミ) | |
【体長】 2~4mm | 【体長】 1~2mm |
【成長・産卵】
幼虫と成虫は形がよく似ている。 蛹(さなぎ)をつくらずに、脱皮することで成長し、羽化後1-2週間で成虫となる。 成虫は交尾後、1日5~15個、一生で約100~250個程度の卵を産む。 |
【成長・産卵】
幼虫と成虫は形がよく似ている。 蛹(さなぎ)をつくらずに、脱皮することで成長し、羽化後1-2週間で成虫となる。 成虫は交尾後、1日1~4個、一生で約40個程度産卵する。 |
【成虫の寿命・産卵期間】 約1ヵ月 | 【成虫の寿命・産卵期間】 約3週間 |
【寄生部位】 頭髪 | 【寄生部位】体毛(特に陰毛) |
しらみつぶし・・・
たとえ話になりますが、ゴキブリホイホイは、害虫の駆除に役立ちません。どちらかといえば、自己満足的なアイテムです。捕まえた実感はありますが、駆虫はできません。
シラミに関しても、櫛や毛づくろいで対応しても、実際には”取り残し”があります。
シラミの治療は、虫体数を減らすことではなく、駆除です。完全に駆除しない限り、何回も産卵しますし、他者への感染源となってしまいます。
櫛(クシ)で すく という方法は、”補虫したという実感”はありますが、シラミが消えるわけではありません。見えない敵に対しては、薬剤の使用が一番確実です。
薬剤の使用を ためらう人もいますが、家族やお友達を守るために、しっかりとした対処が必要です。
2013年8月26日 ふたばクリニック 広瀬久人