HPV(ヒトパピローマウイルス)と口腔咽頭癌
- HPV・ヒトパピローマウイルス と 隆起病変・イボ
- 発癌性HPVと口腔領域癌
- 乳幼児・咽頭乳頭腫
- 付記:HPVワクチンに関して
HPV・ヒトパピローマウイルス と 隆起病変・イボ
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、名前の通りパピローマ(乳頭状イボ)の原因ウイルスです。よく見られる皮膚のイボ(尋常性疣贅)は、HPVの感染症です。尋常性疣贅の原因となるHPVは、HPV-2型,4型,7型,26型,29型などが報告されています。
HPVは、現段階では、120種以上が確認されています。HPVの型類によって、感染部位の親和性が異なるため、皮膚に発症しやすいタイプや粘膜を好むタイプなど感染巣に特異性があります。
皮膚や粘膜上皮に感染するHPVは、上皮の上層に感染します。感染巣が浅いために、防御免疫疫が形成されるまでに時間がかかり、反復感染を起こしたり、持続感染を形成することもあります。
また、HPVの初期感染は上皮に限局しますので、清潔な皮膚・粘膜ケアを維持すれば、初期感染巣は老廃上皮と一緒に脱落していきます。ただし、皮膚・粘膜上皮は物理的外力を受けやすく、小さな傷を常時認めているため、脱落しない深い部分に感染巣をつくることもあります。
HPVの中には、発癌に関連するタイプもあり、癌に関連する種類を”発癌性HPV”と呼んでいます。たとえば、子宮頚癌の原因として HPV16、18、31、33~35、39~41、51~60が有名です。
発癌性HPVと口腔領域癌
口腔咽頭領域の扁平上皮癌とHPV感染の関係が、最近クローズアップされています。
口腔領域癌の原因として、飲酒や喫煙が従来から指摘されていました。多飲者や喫煙者は減少傾向にあるため、酒・たばこ関連の口腔領域癌は減少しています。しかし、酒・たばこに関係ない口腔癌が増加しています。タバコ・酒に続く、第三のリスクファクターとしてHPVがあります。
HPVを認めない口腔癌は高齢者に多いのですが、HPV陽性の口腔癌は若い世代に多い傾向を認めます。HPV陽性腫瘍は、舌根部や咽喉頭部などに発生しやすく、通常診察で発見しにくい部位が病巣となります。
HPV感染は、濃厚な接触で起こります。キスや性的行為など直接接触を介して、パートナーとHPVを共有することになります。発癌性HPVの遭遇は、まれなものではなく、通常の生活で男女両性とも感染期会は必ず認めるものです。
口腔領域癌は、日常生活の大きな支障になる病気です。摂食行動の直接障害となる上に、咽喉頭や舌の障害により会話が不自由となります。口中の違和感や疼痛が常在すると、とても気になる症状で、精神面でのストレスも大きい疾患です。
HPVの予防は、子宮頚癌の予防に限らず、口腔領域癌の予防にも繋がります。HPV感染予防には、独りの努力だけでは不充分です。パートナーと一緒に、全身や局所のケアを実践することが大切です。お互い乱暴すぎる行為は控えること、不特定な相手を避けパートナーを大切にすること、肉体的にも精神的にも清潔なケアを心がけることが重要です。
乳幼児・咽頭乳頭腫
尖圭コンジローム罹患者が産道出産した場合、新生児のノド(咽頭)に乳頭腫を、まれに発症することがあります。
尖圭コンジロームのHPVが、出産時に乳児の咽頭に播種します。乳児の咽頭粘膜は、物理的にも免疫的にも脆弱であり、HPV感染のターゲットになりやすい部位です。
もし感染が成立した場合は、1~3歳くらいまでゆっくりと咽頭のイボ(乳頭腫)は成長し、幼児期に声がれやノドの狭窄症状認めるようになります。咽頭乳頭腫を発症した場合、HPVの除染は困難です。乳頭腫自身は経時的に持続発育しますので、気道の物理的障害になる度に切除治療が必要となります。
母体外陰部に尖圭コンジロームを認める場合は、慎重な出産管理が必要になります。
後述するように尖圭コンジローマに対するワクチン(ガーダシル)も使用可能となっております。ガーダシルを適正に使用することにより、母体のHPV感染症を予防するだけではなく、将来のお子様のHPV感染も予防することが可能です。
付記:HPVワクチンに関して
HPV 16/18型(2価)ワクチンとして、サーバリックス(Cervarix)が利用できます。
HPV 6/11/16/18型(4価)ワクチンとして、ガーダシル(Gardasil)が利用できます。
追記(2022.09.25)
HPV 6/11/16/18/31/33/45/52/58型(9価)ワクチンとして、シルガードが利用できます。
ふたばクリニック 広瀬久人 (2009.12.22)