帯状疱疹を予防するワクチン
- 帯状疱疹 と みずぼうそう
- 神経根に、帯状ヘルペスウイルス(VZV)は潜伏します
- みずぼうそうに罹(かか)らなければ、帯状疱疹はおきない
- みずぼうそうの既往がある場合、帯状疱疹の予防方法は
- 帯状疱疹にも、水痘ワクチンは有効です
- 余談:みずぼうそうワクチンは、日本人が開発した
帯状疱疹 と みずぼうそう
水痘・帯状ヘルペスウイルス(varicella-zoster virus:以後 VZV)は、初感染の場合にウイルス血症を起こして、全身の皮膚に水疱を伴う発疹をつくります。みずぼうそうとして有名な病気です。この”水ぶくれ”の中には、たくさんのVZVが含まれています。
みずぼうそうが治癒すると、皮膚や血中のVZVは消失します。しかし、一部のVZVは神経根の中に隠れて、生涯にわたり宿主と共棲することになります。
帯状疱疹とは、神経根に隠れているVZVが再活性化したときの皮膚炎です。感染巣の神経根から、抹消に神経が伸びていますが、この末梢神経に沿ってVZVが増殖し、神経領域の皮膚に、水疱を伴う炎症を起こしてきます。帯状疱疹の実態は、皮膚炎を伴う末梢神経炎であり、治癒した後でも該当部位の強い神経痛が残ります。
神経根に、帯状ヘルペスウイルス(VZV)は潜伏します
人間の背骨から脊髄から末梢神経が分岐する場所で、根元に小さな”ふくらみ”があります。この部分は、”ラッキョウ”のような球根形なので、神経根と呼ばれます。
神経根は、血液髄液関門 (blood-CSF barrier)というバリアに保護されています。このバリアは、脊髄や神経根を覆って、保護していますが、逆に 血清中の免疫抗体から隔離された環境にあり、液性免疫による感染防御が不十分です。神経根へ逃げ込む習性のあるVZVにとっては、免疫が届かない都合の良い隠れ家です。
【付記】 帯状疱疹 と 単純疱疹
帯状疱疹 と みずぼうそう(水痘)は、どちらの疾患も 『水痘・帯状ヘルペスウイルス(VZV)』 が原因です。
口内炎(単純ヘルペス)や陰部にできる”びらん”(性器ヘルペス)は、単純ヘルペスウイルスによって起こる病気です。ヘルペスと言う言葉が使われておりますが、VZVと単純ヘルペスウイルスは異なるウイルスです。
みずぼうそうに罹(かか)らなければ、帯状疱疹はおきない
みずぼうそうが治った後に、VZVは神経根の中に隠れてしまいます。みずぼうそうに感染しなければ、帯状疱疹発症は理論的に発症しません。小児期に、みずぼうそうワクチンを使用することは、みずぼうそうの予防だけではなく、将来の帯状疱疹の予防にもつながります。
アメリカでは、水痘ワクチンは公費接種ですから、無料ワクチンです。幼児期と学童期に2回接種を行います。(アメリカでは、MMRVワクチンが開発されており、麻疹・おたふく・風疹・水痘の4種ワクチンが、推奨されています/2009年 記載)
みずぼうそうの既往がある場合、帯状疱疹の予防方法は
帯状疱疹ワクチンは、海外でも、国内でも承認された製剤が販売されています。
2006年、アメリカで、帯状疱疹ワクチン(Zostavax)が承認。(2020年Zostavaxは、Shingrixへ移行し、販売中止)
2017年、アメリカで、帯状疱疹ワクチン(Shingrx)が承認。
2016年、国内製・水痘生ワクチンが、帯状疱疹予防接種として追加承認。
2018年、日本国内で、帯状疱疹ワクチン(Shingrex)が承認。
(青字の部分は、2022.09.25追記)
”みずぼうそう”を患った人は、将来 帯状疱疹に苦しむ可能性があります。帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹予防のため利用されています。
アメリカで行われた疫学調査で、帯状疱疹ワクチンを接種したところ、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する特異的細胞性免疫が高まり、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の発症率や重症化が抑えられることが報告されています。
注意
1:帯状疱疹ワクチンは、発症中の帯状疱疹に 効果を認めません。
2:帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹の発症後に接種した場合、帯状疱疹後神経痛に効果を認めません。
3:Shingrixに、みずぼうそう予防の適応はありません。
余談:みずぼうそうワクチンは、日本人が開発した
ワクチンを作るための培養されるウイルス系統には、株という言葉が用いられます。水痘ワクチンに使用されるウイルス系統は、岡株と呼ばれており、名前の通り日本人によって確立された培養株です。
ふたばクリニック 広瀬久人 (2009.08.28)