ご注意
このコラムは 2005年に書かれ、2021年に加筆されています。
今後のインフルエンザ状況・ワクチン環境によっては、記載内容に不都合が生じる可能性がございます。ご承知おきください。
インフルエンザワクチン推奨株
インフルエンザワクチンは世界中で、冬季流行期に利用されます。
ワクチン製剤に利用されるウイルスは、Aソ連型/H1N1、A香港型/H3N2、Bビクトリア系統、B山形系統から、それぞれ1種類ずつ代表を選択し、4種のHA成分を混合して、ワクチン製剤となります。
それでは、ワクチンの基となるウイルス株は、どのように決められているのでしょうか? 実は、流行期の約10ヶ月前に ”WHO推奨株” として決められています。
ワクチン推奨株 と 各国のワクチン製造株
WHO(世界保健機構)は、世界に4か所あるインフルエンザ協力センターを中心として、インフルエンザ世界流行に関する監視を行っています。このグローバルネットワークによる流行状況の把握と分析に加え、分離株の抗原解析の結果に基づいて、流行株抗原の予測を行います。(ワクチン推奨株)
このWHOレポートを参考に、各国の行政機関・ワクチンメーカーは実情に合わせたインフルエンザ株を選択します。WHOの推奨株は、ワクチン製造実績に合わない場合が多いので、それぞれの実情に合わせたワクチン株が決まります。(ワクチン製造株)
WHO推奨株は 日本においても製薬ベースでの培養実績がありません。充分な培養実績・臨床実績のある株で、WHO推奨株と抗原相同性を維持できるタイプを利用することになります。さらに国内での過去流行状況の分析結果も加味して,Aソ連型、A香港型、Bビクトリア系統、B山形系統の計4種を選定していきます。
WHOの推奨は、北半球では3月に(南半球では9月に)発表されます。日本など北半球では5~6月に実際の臨床使用株を決定し、10月の供給に向けて製造・検定が行われます。
流行予測?
現在でも流行しているA型インフルエンザウイルスは、過去大流行した2大インフルエンザ(ソ連風邪、香港風邪)の系列です。遺伝子型を変えて、その子孫にあたる変異株が、今でも流行しております。
過去の流行
1918年 スペイン風邪(H1N1)、
1957年 Aアジア型(H2N2) (アジア風邪)
1968年 A香港型(H3N2) (香港風邪)
1977年 Aソ連型(H1N1) (ソ連風邪)
WHOの推奨株とは、流行が予想されるウイルスの一部分、具体的には ”HAという部分” の予測にすぎません。WHO推奨株と実際のワクチン株は、HA部分が免疫的に共通であるということです。言い回しが遠まわしですが、抗原性の予測です。
強引な たとえ話ですが、この冬に流行するトータルファッションの予測ではなくて、人気の出そうな靴のレポートと考えてください。
山形株が消えた?(2021)
2020年、コロナ(SARS-CoV2)パンデミックと対照的に、インフルエンザは世界的に流行しませんでした。2020年、限られたインフルエンザ報告の中で、『B山形系統』を遺伝子的に確認できませんでした。
山形ラインとして疑われたウイルス検体を遺伝子検査し、実際に山形ラインは見つかっておりません。(2020年)
山形ライン全滅・・・との推測も流れており、今後の監視体制・インフルエンザワクチン体制再編の可能性があります。(2021.11.21記)
高病原性トリインフルエンザ
2000~2010年にかけて、高病原性トリインフルエンザが大きく取り上げられました。このインフルエンザウイルスは、A型/H5N1に属します。ソ連型でも香港型でもありません。
インフルエンザ・A型ワクチン株は、現在H1N1(Aソ連型)、H3N2(A香港型)の2種のみです。もし H5N1ウイルスが人類に親和性を持ち、さらにヒト病原性を備えた場合、現在のワクチンでは効果を期待できません。
インフルエンザワクチン製造株リスト(日本)
ふたばクリニック 広瀬久人 (2005.06.15記、2021.11.21改)